Morimori eat vegetables

宇内一童のブログ

モスバーガーの風

高校時代、一気に友達が増えた時期がありました。


そのころ僕は携帯屋でバイトをしていました。
どういうバイトかというと、学校の友達や先輩に携帯の新規契約や機種変更をすすめて申し込んでもらうというものです。

f:id:EinsWappa:20121221120305j:plain


契約書は学校や家で書けばOKだし、携帯は僕が学校に持っていくので「携帯屋に行く手間が省けて便利だ」ってちょっと噂になって、それで交友関係が広がったんですよね。


僕は普通科だったんですけど、商業科の女から話しかけられるようになったりして。別にモテてたわけじゃないんですけど、なんか僕のことを知ってるんですよ。

童貞真っ只中の僕だったから、頭の中はセックスまみれで、だから女子と知り合えるのは単純にうれしくって。このまま順風満帆な船に乗ってセックスという名の島まで漕ぎ着けるんじゃないかと思ってましたね。


f:id:EinsWappa:20130210122320p:plain


で、そんなある日、僕のところで携帯を買ってくれたことのある、バレー部所属の浜口京子みたいな女に誘われたんですよ。


「こんど、あたしのバイト先に遊びにおいでよ!」


僕はテキトーに「ああ、じゃあ行くよ」って返答して、後日、そいつのバイト先のモスバーガーに行ったんですよ。「遊びにおいで=食べにおいで」ってことですね。


店に入ったら、なんか、当たり前ですけど働いてましたね。モスバーガーの制服で。浜口京子みたいな顔して。


目が合いまして、京子は僕に近づいてきまして、多分、僕は「おっす」とか言ったと思います。真顔で。京子も「来たんだね」とか言いましたね。真顔でした。


なにバーガーを頼んだか細部までは覚えてないけど、真顔で食べたのは覚えています。ジュースとかポテトも食べた気がします。


f:id:EinsWappa:20130210124844j:plain


10分くらいで食べ終わって、僕は作業中の京子に近づきます。


「じゃあ、帰るわ」


「うん、じゃあまた明日」


店を出て、ママチャリにまたがり、寄り道もせず家に帰りました。







人間の脳は記憶する力に長けていないなんてことを、ある本で読んだことがあります。

でも、そうは言っても、強烈な思い出っていうのは嫌でも脳に残りますよね。大失恋であったり、大成功であったり。それでなくても、なにか「心」が動かされたような出来事っていうのは脳に残るような気がするじゃないですか。


だから僕は、何故?って思ってたんですよ。


僕は何故、京子とのモスバーガーの思い出をいまだに覚えているのかと。だって、ただバーガーを食べに行っただけですよ。

ずっと解せなかったんですけど、その謎の答えがようやくわかりました。



  • 京子はただ、誰にでも言うノリで、なんとなく、僕を誘った。
  • 僕はただ、誘われたから、なんとなく、京子のバイト先へ行き、バーガーを食べた。


この2点だけ。

それ以上でも、以下でもない。それ以外に、何もない。

そう、そこにはリビドー(性的衝動)がなかったのです。







モスバーガーにいる間、セックスへの憧憬に占拠された僕の脳に、あまりにもクールな風が吹いていたのです。

京子の真顔から推測するに、京子の脳にも同じ風が吹いていたと僕は考えます。

それはあまりにも寒すぎる風。言い換えるならば、限りなくピュアに近い寒風


f:id:EinsWappa:20130210130258j:plain



京子、今なら僕はわかるよ。


僕らは同じ風を感じ、同じ風に震え、同じ風穴が空いたんだ。

何かの拍子に、その風穴を風が通り抜けると、モスバーガーの記憶が蘇るんだよ。




京子、君の風穴はどうだい。


すっかり治ってしまったのかい?

僕の風穴はまだ空きっぱなしだよ。




京子、君はまだ、バーガーの作り方をおぼえているかい?


君の作ったバーガーで、僕の風穴をふさいで欲しいんだ。

そう、あの頃と変わらぬ、とびっきりの真顔のままで。

広告を非表示にする